ヌイグルミ


胸には子供の頃に無くしたはずの、
目つきの悪いネコのヌイグルミ。
耳は片方が垂れ下がっているし、
ヒゲもくるくると曲がってしまっている。
色あせたグレーで、尻尾が長くて…。
思い出せば、僕はこのヌイグルミがそばに無いと、
すぐに泣き出し、不安がっていた子供だった。

僕はそれを両手で抱きかかえている。
「もう、とっくに無くしていたと思ってたのにな。」
手に取ってしまえば、またそれを失った時の
"胸と両手の空間"が、思い出されてしまう。
心に穴が空いてしまった様な、
喉に込み上げる、言い様の無い不安…。
僕は、またヌイグルミを両手で強く抱く。
「もう、1人になって泣きたくないんだ。」
だらか、僕はヌイグルミを抱いているんだ。

ヌイグルミのおかげで、
僕は君を、胸に抱けなくなってしまった。
もっともっと、君を感じたいけれど、
もっと、君を心に詰め込んでしまいたいけれど、
僕は両手を広げる事が恐くなってしまったんだ。
君は、笑ってくれるか?
君は、消えてしまわないか?
君は、僕を1人にさせないか?
君は、何を胸に抱いているんだ…?

これからの事なんて、僕にも分からない。
何をどうすれば、君が笑ってくれるだろうか。
君が笑うだけで、僕はそばに居られるだろうか。
君を胸に抱けなくなった時に、
僕はまた、泣いてしまわないだろうか。
そんな事を思いながら、強く強く両手で抱く。
それは、もっと胸と両手の空間を広げて、
1人の不安を大きくさせるけど、
ヌイグルミを離してしまっても、
涙はでなかったんだ。

君が両手を広げる先に、
目つきの悪いネコのヌイグルミ。
僕は、もっと君を笑わせよう。
そんな風に、考えている、
目つきの悪い、ネコのヌイグルミ。
君の、ヌイグルミ。